突然ムーランの楽屋に顔を出した森繁さんは「今夜サンジェルマンのクラブに連れてってくれ。パリの思い出を創りたい」という。断ることもならずセーヌのあちら側にタクシーを走らせた。店に入ろうとすると僕の腕をひき、懐からおずおずと掌に収まるほどの巾着袋を差し出した。「実はここに真珠玉が700個入っている。いざという時にこれを使って想いを遂げたい。」美しい真珠の数々は、パリ娘を驚かし繁さんの思い出づくりに役立ったのだった。帰国後、あの折のお礼と称し「モリシゲ豆腐」の作り方をおしえてくれた。後年、テレビ朝日に初めて森繁番組が誕生、演出を担当することとなった。再び繁さんの願いは、リハーサル本番の3日間、近くのホテルにダブルの部屋を抑えてくれ、という。朝起こしてくれる美しい係が側にいないと時間どおりにスタジオ入りが出来ないと駄々をこねていた。現場では女優さん達のお尻をさわる。なかには触って欲しい女優さんが近ずいたり、繁さんの膝にまたがってしまう女優もいた。実におおらかで、シアワセな森繁さんだった。あの頃誰もセクハラなどと声をあげなかった。今頃は天国で誰に遠慮することなく幽霊達のお尻を触っていることだろう。合掌。
プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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