「濱土産」と書いて「はまずと」と読む。
蛤をウツワに見立てたところが、このお菓子最大の売りである。桧葉のあいだから、いくつもの蛤がすがたを見せると、歓声があがる。
桧葉の深いみどりと、蛤の肌がまことに品よく夏らしいハーモニーを奏でる。
一年中ある訳ではない。5月なかごろから9月なかごろまでの夏菓子だが、蛤が年々痩せて来て昔より心持ち小さくなったような気もする。
この濱土産は、海から遠く離れた京都の人に浜の香りをとどけたいと、堺町三条の菓子や亀屋則克の初代が考案したものだと云う。
磯辺でとれた蛤を容器に見立て、寒天と砂糖を煮詰めた琥珀羹の真ん中に、浜納豆を一粒あしらった見るからに涼を感じる仕立てである。
琥珀羹の夏菓子には、棒状のものやら、櫓に切ったものなど見受けるが、この蛤に入った濱土産にはどれも敵わない。
殻のなめらかな方に爪をいれて開き、空いた殻をスプーンにみたて、すくつた羹を口に運ぶと、すつと夏の熱さが融けていくような、はんなりとした気分になる。
買い求めた容器も、編み笠に桧葉や、磯馴籠に桧葉をいつぱいにひきつめて届けてくれるなど、昔ながらの心ずかいがつまつている。
夏になると祇園のお茶屋廣島家さんから、届けられる濱土産が楽しみである。
暑さを凌ぐ涼菓・濱土産
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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