料理小松にみた洗練のあじ

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 京都とともに食の都といえば金沢をおいて他にない。
 つる幸、浅田屋、金茶寮など、…一流の料亭が軒を連ねている。京都の料亭やお茶屋さんの娘、息子さんたちも、学校をでたら、とりあえず金沢で修行してくるというのが、お決まりになっている。つまり京都の料理文化の予備校のような存在が、加賀百万石のお膝元に存在する。
 どうせなら、うまいものを食べようということになった。近頃評判の店を教えてくれるという地元のグルメ通から懇切丁寧なメールを頂いた。
 片町のスクランブルから鱗町に向かう右側に「小松」という店がある。銭屋で料理長をしていた方が三年前に独立して出した、今の金沢ではぜひモノの味だという。
 装飾を一切はいした簡素な店内には、掛花入れにコヤマレンの一輪が活けられ、そのしたに趣味のいい陶箱がおかれていた。
 肌つやの綺麗な若い女将さんが迎えてくれた。古典柄の加賀友禅をきこなし、すっきりした佇まいに控えめながら、適切な言葉遣いで料理の説明やら、旅人の雑話に応じてくれた。大将の奥さんかな、いや生活感をまつたく感じないから、ひょっとして愛人かも…普通の雇われ女では、あそこまで道具のこと、材料のこと、調理のことまで学ばないだろう。旅人たちはひそひそと興味をもった。料理を運ぶ姿も過不足なく大将と一体化して気持ちのいい接待をしてくれた。
 先付には奉書がかけられ、水引がゆったりと結ばれ、菖蒲のつぼみの一輪が添えられてでてきた。最後の葛きりのデザートまで、丁寧に洗練された美味の夕餉だった。


コメント

1件のフィードバック

  1. 季節の花を使った演出は、何か見るモノの気持ちを昂揚とさせますね!
    花の持つ生き物を引きつける作用が、人間にも影響するのが何故か不思議ですが、地球という生き物が、地表の住人に悪さをさせないためにやっているのかも知れません。

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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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