都の桜がぜんぶ散ってなんたる不運と嘆いていた時、仁和寺に行けば御室の桜がありますえ、と教えてくれたのは祇園の千子さんだった。
背のひくい見事な桜が、中門の前に奇跡のように咲いていた。四月も末の頃、原谷も賀茂川沿いも哲学の道もみんな散ってしまっているのにここ御室の桜だけが盛りをむかえているのは、奇跡のさまを目の前にしたような気分だった。
その仁和寺が今注目を浴びている。街じゅうの薬やさんや、スーパーから消えてしまったマスクを仁和寺のお寺さんが下さるというのだ。
奉紙を長方形にたたみ、マスクのサイズになったなかに、薬師如来のご朱印を押し、たたんだ両端にこよりの紐をつけた有難いマスクである。
お坊さんがご本尊さまの前などで使用する手づくりのマスクである。お参りにきた方への感謝のしるしに差し上げていると、仁和寺さんは言っている。
御室の桜の奇跡といい、マスクのご下賜といい、やはり仁和寺は本山にふさわしく霊験新たかなのかもしれない。
手づくりのマスクといえば、千家のお家元でもいつもマスクを作っている。
寺社仏閣へのお献茶のおり、家元は常にマスクをしてご本尊様へ息がかからぬよう茶を点て、お運びしている。
決してアメリカンドラッグで買い求めた中国製マスクは使用しない。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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