小沢征爾がグラミー賞を獲ったのではない

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小沢征爾がグラミー賞を獲ったのではない
  オペラの録音はとても難しい。
 ボックスに入っているオーケストラは定位置での演奏なので、譜面さえ読んでいればそこそこに録音できる。が出演者については動きがあるし、とくに舞台全面を使った動きのあるオペラの場合、各パートを的確に録音しようとすると、ひとえに録音技術の優劣がでる。
 これはミュージカルの場合も同じで、キャンディードなどは舞台と客席に100本のマイクを仕込んで、公演によりそっていたし、CD制作にあたっては舞台演出とは異なるステージングで録音をしていた。それ故にアカデミー賞でもグラミー賞でも録音賞という部門が設定されている。
 ここ二、三日テレビのワイドショウや新聞を賑わしている見出しに「小沢征爾グラミー賞獲得」とある。記事を読んでみると、グラミー賞録音部門で受賞とかいてある。小沢征爾はいつからミキサーになったのか。
 録音賞は録音技術の優れたスタッフに贈られるもので、指揮者はいささかの貢献はあるものの受賞者ではない。
 この国の情報のいい加減さには驚く。それでもどこかにこのCDの録音スタッフの情報がないかとさがしたが、どこにも見当たらない。三ページも費やして快挙、快挙と書きたてている地元紙も、松本の想い世界にとどく、とか町の声も小沢さんは素晴らしいとある。更に呆れるのは、インタビューを受けた小沢の発言のどこにも録音スタッフへのお礼、感謝の言葉がない。2013年松本芸術館に於けるライブ録音なので、ユニバーサルの録音技術者ないしは下請けの録音スタッフの仕事に違いないのだが、どこの記事にも見当たらないのだ。
 すべてを小沢征爾と書いて、素人は誤魔化せるが、世界的な技術をもつ日本のレコーデングミクサーを殺すことになる。
 グラミー賞は、ラベル作曲小沢征爾指揮のオペラ「子供と魔法」の録音スタッフに対して与えられたのだ。
 この国は情けない情報後進国だと改めて感じた。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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