メディアで働く友人は、靴は5足しかもっていない、と豪語している。あとはスニーカーだけよ。
別に彼女の靴が5足だろうが、10足だろうが、どうぞご勝手になのだが、ある時うちによってけ、というので彼女のアパルトマンに立ち寄った。
黒い大きなドアを入ると、右側の絨毯ぎわになにげに靴が並んでいる。見てと促され目線をやると、黒いシンプルなパンプス、トゲトゲのついたフラットシューズ、赤いハートのついた黒のピンヒール、そしてもう一足は一見ヒールがガラすのように見えるパァーティ・シューズ、そしてあとの一足は彼女の足にある。
アクセサリーはいらないけど、靴は命だという。その命はたった五足。
それらの靴底はみな赤に染められていた。靴底はいちいち他人に見せるわけでもなし、自己満足のなにものでもない。底の赤い靴をはくと気分が高揚してシアワセになるのよ、と彼女はいう。しかし、深紅に染められた靴底のルブタンは、そんなに楽に履けそうもなく見えた。そこが良いんだと彼女は云う。
考えてみると、きものの不自由さにも通じるのか、帯を身に付けた時のしゃっきりとした不自由さが適度の緊張をもたらして心地いいと、きいたことがある。
ジェニファー・ロベス、ビョンセ、アンジェリーナ・ジョリー、ミランダ・カー、ジェシカ・アルバなど名だたるスターやセレブたちに愛されるルブタンの靴には、女性の心に自信を生み出す魔法が隠されているのかもしれない。
10着の服と5足の靴をもち、いつも薄化粧の彼女は、下着はすべて通販でまにあわせているという。二ヶ月ごとに、日常用二点、旅行用一点、アバンチュール用一点の四点の下着が届けられるそうだ。
いまは愛人が一人とセックス・フレンド一人がいるという彼女だが、別れしなに説明してくれた、なぜこのアパルトマンに住んでいるのか。 傷んだルブタンのヒールをいつでも本物の新品に取り換えてれる靴やがすぐそこにあるのよ。といってケラケラと笑った。
今時のパリジェンヌのライフ・スタイルをのぞき見た気分だった。
女を創る赤いルブタンの靴
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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