大根おろしは「鬼おろし」に限る

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大根おろしは「鬼おろし」に限る
 大根おろしという脇役は大好物である。
 大根おろし単体ではなく、小女子のしたにどっさりと盛られた大根おろし、秋刀魚の焼き物に添えられた大根おろし、など主役は大根おろしなしには語れない。
 子供の頃、台所で母から命じられた大根おろし担当は、どきどきしながらも嬉しいお手伝いだった。危うく指をおろしそうになりながらも、一生懸命大根をおろした。
 手にした道具は瀬戸製のおろし器だった。それが何時の頃からかおろし金にかわった。ブリキ製の下ろし金はまたたくまにプラスティックに取って代られ、汁の受け皿がついた、いわゆる便利なおろし器という体裁になつた。
 があの頃から、大根おろしの堕落が始まったような気がする。
 大根おろしが、やたらフワフワになり、大根の存在が薄くなっていった。顎のない若者たちが、なんでもかんでもヤワラカーイと礼賛し、大根おろしから大根の影がなくなっていったのだ。
 大根の美味さを知らない食物コォディネーターが跋扈し、とりあえず大根おろしと称する添え物の天下になっていった。
 先日築地場外でひさびさに店頭にぶら下げられた「鬼おろし」に遭遇した。一金1728円也の竹製の鬼おろしだった。帰宅ご、早速に鬼おろしを試みてみた。
 大根の美味さと大根臭さのある絶品の大根おろしができ、秋刀魚のわきにおくには、勿体ないほどの大根おろしだつた。以来大根おろしは、「鬼おろし」に限ると我が家の京おんなも納得している。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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