先斗町の料理屋からせり出した川床は別世界に見えた。いつかあの川床で、鴨の川風に当たりながら優雅なひと時を送りたいと念じていた。長じてぼんぼりに囲まれた床で芸妓遊びなどしても、さしたる感興はなかったが、東山に上る大きな月を眺めながらの食事には、とびきりの美味を感じた。
鴨川の川床に真似て、いま計画進行中が東京の長期都市計画、水と緑の回廊に包まれた水辺空間の創出というスローガンだ。
「かわてらす」と称した隅田川と日本橋川の一部に、出店を募集中だ。
葦の茂った川辺からチョキ舟で深川へ通った風情もなく、歌舞伎白浪五人男の揃った隅田の土手も遠くなってしまったが、今一度大川端にあった川辺の文化、水辺の暮らしを取り戻すことが出来たらどんなに素敵なことか。
春になると将軍吉宗の植えた隅田堤の桜を楽しみ、長命寺の桜餅を求めて隅田川に足を運んだ。
夏には駒形のどぜうに汗を流し、花火に声をからした。佃の小路にあさりの佃煮を買いに行って迷ったこともある。
江戸っ子にとって「隅田川」いや「大川」は暮らしに生きた水辺なのだ。
大川に水辺の文化を取り戻せ
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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