我が家に3本の一升瓶がある。
毎年大寒の水を入れ替えて、その証を瓶まわりに書いておく。従って三本の一升瓶は全身ラペルだらけ、書き換えられた年号の文字もその時の気分次第なので、まあお化け屋敷の備品のごとき態をなしている。この習慣を持ち込んできたのは京都からだ。
持ち込んできた本人はあまりその意味もわからず、子供のころからそうしてきたから、とにかく大寒の水を入れ替える役割だけが、筆者のもとに残った。
大寒は一年でいちばん寒い日だから、この日汲み上げた水は腐らないとか、この大寒の水は薬になるとか、この水で餅をつくといいというので、年越しをしてからの餅つきはたいてい一月の大寒前後だった。そうした餅つきの楽しみもだいぶ遠くへ行ってしまった。
庭に持ち出した筵のうえに臼を置き、すぐそばの仮の釜戸でもち米を蒸す。蒸しあがった傍から臼に写し、体力のある順に杵を手にした。捏ね手と杵の呼吸が合わないと大変なことになる。
突き立ての餅をちぎって餡子のなかへ、きな粉のなかへ、やつぱり突き立ての餅には大根おろしがとても良く合った。去年の益子の陶器市で見つけてきた竹の鬼おろし、これで降ろした大根は無敵だった。
いまでは餅つきは、外人観光客向けのアトラクションになってしまった。家庭では「さとうの切り餅」が美味いとか、時代はすっかり変った。
たまに友人から「久しぶりに餅をついたので…」と豆餅など届くと嬉しいことこの上ない。
大寒の餅つき
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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