銀座、夜のコンビニは凄い。
銀座で生きる人々の万華鏡になっている。軽井沢のコンビニでは絶対に見られない人間模様がある。
ヒガミをゆった着物姿のママがおにぎりのまえでためらっている。お店に向かう前、コンビニによって、今日の腹ごしらえか。いや接客中の小腹のすいた時、裏で密かに腹をみたすための戦闘食か。
突然飛び込んできた若者はバーテンなのか。チョッキ姿にボータイがいかにものオールド・ファッション。
カクテルに添えるレモンが足りなくなったのか。レモンがなければ梅干しでもいい、と叫んでいる。
頭に金粉、銀粉をちらした両腕シースルーのオネェサンは、カップ麺と弁当のおかずになるコブクロをいくつも買っている。ひょっとして家には子供が待っていて、明日の弁当の用意かもしれない。美しく着飾った衣装がどことなく寂しい。
酔っぱらったオジサンは、酔い覚ましのカップ粥と言い訳用のドーナツだ。ろれつが回らないのかドーナツの数で店員ともめている。
シャネル・スーツの人品卑しからぬ女性が入ってきた。ショートカットの髪型がなんとも素敵だ。身長も170センチはあるだろう。なにを買うのかとみれば、ティッシュに手を延ばした。1ダースのティッシュを抱えて、黒のシャネルスーツはでていった。
コンビニのなかは香水の香りがあふれている。入ってくる客が皆いい香りをふりまいては出ていく。香水に弱い男の子は銀座のコンビニでは働けない。
突然、飛び込んできたのは組合のひとだ。化粧は徳光さんの親戚風だが女装のしたには、がっちりと男の骨組みがみえる。脇目もふらずATMの前に立った。そうか、オカマだって銀行に預けるよ、と自分を納得させた。降ろしたキャッシュを大事そうになんどもなんども数えては、コブクロに分けている。はてなの文字が頭に浮かんだが、それ以上考えるのはやめた。
銀座の夜のコンビニは、8丁目のセブンイレブンである。
戯曲の舞台としてもこれ以上の設定はない。
夜8時、銀座のコンビニ
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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