立派な会社に行くと、玄関を入ったところに必ず受付があり、美しい女子が一人または二人必ず座っていた。その美女は会社を代表する顔であり、社長あるいは専務の居場所から、ビルのすべてを把握していた。
だから入社して一番先に、受付嬢に顔を覚えられ、名前を覚えられ、働く部署を覚えてもらうのは、新入社員にとって誉高いことだった。
「私たちは呼吸しているだけで、お給料がいただけます。そんな職業ほかにございますかしら。」
言われてみれば、その通りで、彼女たちは肌がきれいで、声が良く、スーツが似合って、ほどほどの清潔感があればバッチグー、ほのかな香りのオーデコロンを心掛ければ総て良しであった。
その憧れの受付嬢が、常務の彼女だったとか、部長の不倫相手だったと噂が立つと、若い社員はがっかりし、絶望的な気分になった、いつかは俺のほうを向かせてみせると、無駄な闘争心をもつ奴もいた。
その受付嬢が少しずつ減り、いまでは黒電話と内線案内だけになり、「お客様はご訪問先に直接お電話ください」という指示板のみになってしまった。
削る人件費の対象は受付嬢なのだが、果たしてそれでいいのだろうか。
ニュースでは、受付のできるロボットが開発されたと報じている。そらみたことか会社の顔の受付は必要なのだ。味気ない黒電話の受付と、笑顔を絶やさずこっちの顔と名前を覚えてくれている受付嬢のいる会社、あなたならどっちの会社を選びますか。
受付嬢が絶滅危惧種になつた
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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