卒業式はインサツの着物だらけ

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卒業式はインサツの着物だらけ
 身近にこの春大学を卒業する娘をもつ女性がいた。たまたま話題が卒業式となり、式服の話となった。つい先日「晴れのひ」なる貸衣裳やが、成人式当日に倒産騒ぎを起こし話題となったが、近頃の女子大生は振袖をきるのかなと、つぶやいて一蹴された。
 99パーセントは袴姿だという。なるほど袴なる衣裳はもとは男性のものだし、男女同権の時代シンプルでいいですね、と言ったところ、とんでもない、清楚どころか、それはそれは華やかだというのだ。
 どうしてもイメージがわかない。宝塚の袴姿にみるごとく、シンプルで清潔なのが女性の袴姿ではなかろうか。そんなイメージは古い、古すぎると馬鹿にされた。
 平安時代の優美な袴を想像してはいないが、せめて明治初年、下田歌子の決めた華族女学校(学習院の前身)の海老茶色の袴姿や、跡見花蹊の跡見学校にみる紫色のお塾袴など、ハイカラさんにいたる女子袴姿をイメージしたが、すべて否定されてしまった。
 ネットで卒業式用着物カタログを見せられて、びっくり呆れかえった。袴の貸衣装は2万円ぐらいから10万円ぐらいまで。袴の長さは切袴などと言うのではなく、ブーツを履くか、草履を履くかで異なるようだ。袴は当然のごとく無地ではなく、ビンクや黄色やグラジェーション、紫や海老茶もあって小柄がついている。上の着物は腰丈で袴に隠れる部分は無地柄なし、見えるところは花花花の花園から幾何学模様の前衛風あり、大胆白黒ストライブありのびっくり仰天チンドン屋スタイルだ。これでは三波春夫も負けるし、未亡人サロンも負けるし、ミッツのゲイバーだって顔色なし。いつのまに卒業式はこんなファッションになったのだろう。
 ここには工芸として世界に誇るきものの文化はない。ほとんど99.9パーセントが、印刷のきものなのだ。伝統的な染も、織も、刺繍も縫も絞りもない。すべてはプリンターで済む印刷のきものだ。オリンピックを控え、世界に誇る日本のオモテナシや匠のしごとをプロモーションしているが、一方でこんなテイタラクでいいのだろうか。
 女子大生の卒業式は袴姿と喜んだのは一瞬のヌカヨロコビだった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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