子供の頃、お腹が痛くなると決まって熊本の「諸毒消丸」か、吉野の「陀羅尼助丸」を飲まされた。食べ過ぎたときは伊勢の「満金丹」、母はいつも小田原の「ういろう」をふところにして旅にでていた。何百年もまえから庶民の暮らしと共にあったのが、そうした「伝統薬」である。
もっともらしい片仮名や化学式はなかったが、「龍角散」も「中将湯」も健康の後ろ盾になっていた。なかには呪術的色彩がつよく、神様のお告げにより処方などという怪しげなのもあったが、毒物入りのミルクや薬害エイズを引き起こした非加熱製剤など、西洋医学の死の贈り物よりははるかにましだったような気がする。
その民俗の暮らしそのものである伝統薬が、厚労省の役人によつて消されようとしている。薬事法の改正により対面販売以外認めないというのだ。限界集落に住むお年寄りや、離島の人々にとって伝統薬が買えなくなるというのは死の宣告にちかい。昔からの経験則で伝えられてきたこれらの生活薬を、近頃の金目当ての化学合成薬と一緒にする神経は信じられない。厚労省薬事審議会と称する学者と役人には血も涙もない。
伝統薬を守れ。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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