今朝のトイレ

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今朝のトイレ
 今朝は驚いた。
 顔を洗い、一杯の紅茶を楽しみ、いざ事務所への前に、いつものオツトメをとトイレに入った。
 その時、突然の出来事が起きた。
 習慣的に何も考えず便座に座るのだが、この時経験したことのない異形の感触に襲われたのだ。座ることを拒否され、習い性となっていることに障害が発生した。いつも無言のうちに音もなく開いていた便座の蓋が反乱を起こし、開かなかった。
 静かに収まるべき便座のフレームは、一定の温度を保ち、真冬でも快適なすわり心地を提供してくれていたのだが、なんの理由からか突然にサボタージュした。
 不様にも蓋のうえに座り込んだのだ。 予期せざる出来事への反応は年々鈍さを増している本人としては息も止まらんばかりの衝撃だった。蓋にすわりながら、血圧の下がるを待って、この蓋自動システムの不具合についての検討に及んだ。
 リモコンの蓋を開け、チェックしてみたが、ボタンは正常の位置にあるし、電池も充分だ。つまり、今朝の便座の蓋だけが、突然に動かなかったのだ。
 原因が判らぬまま、諦めかけた脳裏に浮かんだのは、何年か前流行った「トイレの神様」の唄、いつも綺麗にしておかないとトイレの神様が怒ってシアワセになれないよ、といった歌詞だったような気がした。
そうだ、汚れたトイレは人を不幸にする、懸命にトイレの内外を観察してみたが、これといって汚れた部分はない。
 今朝の軽井沢…零下8度の気温に、便器内コンピューターが異常をきたしたのかも、といった辺りで得心することにした。
 システムに慣れてしまった人間のもろさを、感性のもろさをしみじみと感じた今朝のトイレだった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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