井上八千代ボレロを舞う

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井上八千代ボレロを舞う
 皇室の菩提寺、東山三十六峰の南端にある、御寺泉涌寺での音舞台を見た。
 西本智実指揮によるラベルのボレロに乗って、五世井上八千代が舞うというのだ。
 ボレロはベジャールの名作のみならず、日本舞踊の御師匠さん方も随分と踊っている。えんえんと繰り返しながら少しづつ厚いハーモニーとなり、盛り上がっていくボレロの曲想には舞踊家の心を奮い立たせる魔物が棲んでいるのかもしれない。
 キモノの着流しで座敷舞を得意とする井上流が、このボレロに対しどんな舞を展開するのか楽しみだった。
 家元五世井上八千代は、井上流本科の居ずまい着流しで現れた。極端に動きを抑え、能の運足にも似た静謐な動きから始まった。やがて音楽の流れと共に京舞ならではの手が加わり、生命の生まれる場所と言われている御寺に相応しく扇が開き、やがて二枚扇となって、気がついたら神楽鈴を手に、周りの群舞とハーモニーをなしていた。周りの群舞については、かなり類型的な振りで感心しなかったが、台上の家元は完全にボレロを受け止め、京舞伝承の秘曲「倭文」に見られる天地創造の世界に観客を連れだしていた。
 奇をてらうことなく正攻法でボレロを舞いきった見事な井上八千代だった。メークやコスチュゥムに引きずられることなく、京舞の本科で表現をした井上八千代に拍手を送りたい。
 それにしても佐久間良子の朗読はお粗末につきた。プロデューサーは有名でありさえすれば、なんでも出来ると思っていたようだが、中途半端な映画スターの力、解釈力はあんなもんと眼がさめたことだろう。
 大河ドラマに於ける藤村志保と音舞台の佐久間良子、最近収穫の二大大根であった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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