リリーのすべて

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リリーのすべて
 久しぶりにとんでもない映画を見てしまった。
 「リリーのすべて」THE DANISH GIRL と看板にあったので、北欧娘のラブストーリーかと、時間つぶしに
手頃と思ったのが間違いのもとだった。
 デンマークの風景画家アイナー・ヴェイナーと、彼の肉体に宿るもうひとつの性リリーとの生死をかけたものがたりだった。
 内なるオカマが新宿三丁目で水商売をしたり、芸能界にもぐり込んでバラエティの三段目で稼ぐと言ったそこいらに転がっているトランスジェンダーの物語とは全く違った。
 ブロードウェイのミュージカルなどでも、性の行き違いはコミカルに揶揄したドタバタ・ミュージカルになりがちだが、さすがヨーロッパ、20世紀初頭の性の黎明期を正面から描いた王道のトランスジェンダー作品だった。
 監督のトム・フーバーも「英国王のスピーチ」でアカデミー賞をさらった正統派の監督、ケレンのないカメラワークでしっかりとリリーとゲルダ夫妻の性の悩みを描いていく。 LGBTQ至高の文芸映画なのだ。
 夫の女性への願望を許し、自らの作品に描き込んでいく妻、壮絶な性転換の手術では、客席みな凍り付いて
涙するというドラマティックな体験をした。
 コペンで売れなかったゲルダの絵が、パリの「エチエンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリー」からのリクェストで世にでる、というエピソードにも驚いた。 というのは80年後の今、筆者にきている話と全く重なったのだ。エチエンヌ・ドゥ・コーザンが100年前のヨーロッパでそうした権威を持ったギャラリーだったという事に驚いた。
 トランスジェンダーという概念がまだ確立していなかったこの時代に、誰も受けたことのない未知の手術に向かうリリーと、夫がどう変わろうとも愛を貫く、妻ゲルダのとてつもなく激しく大きな愛に涙は止まらなかった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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