ラスベガス・染五郎の無駄働き

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ラスベガス・染五郎の無駄働き
 歌舞伎海外公演でこれほどがっかりしたことはない。
 ラスベガスのホテル・ベラージオの噴水池での出来事だ。
 市川染五郎の歌舞伎海外公演と銘打って「鯉つかみ」を数分上演した。ベラージオの劇場でやるというのならまだしも、大通り沿いの池で無料のアトラクションとして演じた。
 ベラージオに限らずベガスではあちこちのホテルで野外無料ショーをやっている。
 ミラージュ・ホテルではVOLCANOという噴水ならぬ噴火ショーを上演している。日没から11時まで火山の噴火するさまをダイナミックに演出して通行人をあきさせない。
 シーザース・パレスでは、人間ロボツトによるアトランティスを上演、やんやの拍手である。さらにトレジャーアイランドでは、男と女の海賊船が戦って女船が勝ち、全員女船に乗り込んで唄と踊りのショウになる。下町のフリーモントでは420メートルのアーケードに1250万個のLEDで空中のライトショーを夜な夜な上演している。
 なぜこんなに無料のアトラクションが多いかといえば、カジノへの誘客戦略なのだ。
 地方から小銭をためてラスベガスにやってきたお上りさんが、どこのカジノで銭失いをしようかと、ホテルの立ち並ぶ通称ストリップ沿い、大通りをぶらぶらと歩いている。プア・ホワイトやカラーが多いのだが、彼等の財布の口を開けさせるため、ホテルの前庭でアトラクションを仕掛けているのだ。クラスのある客は、ハイローラーの部屋や有料の劇場イベントを予約してホテルの部屋でくつろいでいる。
 文化にまったく興味のない移民やプアホワイトを相手に、ストリップ沿いの噴水弛で歌舞伎のさわりを演じてもなんの効果もない。ましてや5万平方mもある池の隅っこでやっても通行人の眼には全然届かない。テレビ中継のほうがはるかにましなのだ。
 どこのどなたが、企画したのか存じませんが、染五郎の情熱を弄ぶようなことはしないで欲しい。
 歌舞伎にプライドがあれば、ちゃんとした劇場で演じて欲しい。理解するアメリカ人も必ずいる。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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