ペットに飼われた人間。

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 「ねぇ、ねぇ見て、家のわんちゃん、可愛いでしょ」携帯の画面をいきなり見せられて、カワイイに同調することを求められる。赤ん坊とペットの写真を見せてくださる人々には、絶対に同調し、カワイイに唱和しなければならない。うっかり可愛くない、などといったら人非人になってしまう。
 生まれたての赤ん坊などは、カワイイ、カワイクナイ以前の問題で、人間というより猿に近いと思われるケースもまま散見するが、御約束のごとくみんなでカワイイを連発する。つまりカワイイは、美意識の問題ではなく、誕生への通過儀礼のようなもので、母親に対するゴクロウサマの気分で発するように、最近ようやく納得した。
 ペツトを愛する人々に共通なのは、スケジュールの支配権をペットが握っていることだ。「あっ駄目、その時間はわんちゃんのお散歩。」「犬がいるので、その旅行はいけない。」人間より犬が上位にいて、人間は嬉々としてサーバントに徹している。「お誕生会をするから来て。」そう言われて出席したら、犬の誕生日だったという笑えない喜劇もあるし、人間の洋服造りを止めて、犬のファッション屋に転向したメーカーもある。
 天下国家を云々するよりは、ペツトのお話を交わす、実に平和な光景である。
 イランでは、「ペットとしての犬の所有、売買を禁止する」という法律が目下策定中だそうだ。犬を飼うことは、「公衆衛生にとって危険なだけでなく、西欧習俗の真似事で文化的にも有害な行為」としている。和宮御降下のおり、「すべての犬、猫は宿場より遠ざけよ」というお触れがでて、中山道の村人たちは大変だったそうだが、イスラム教の預言者ムハンマドが「健康のために犬を避けよ」と語ったのと同一線上にある生活思想なのだろう。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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