ヘンデル・オペラの官能について

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 オペラ・ガルニエで「ジュリアス・シーザー」を見た。
 いま一番旬の作曲家がヘンデルというのも、一見時代錯誤のようにも感じるが、ここ数年クラシックの世界では、ヘンデル再来と人気がたかまっているという。
 禁欲的で典雅な彼の音楽が、いまもっともイケテル音楽だというのが、ヨーロッパのオペラ・マニュアたちの声らしい。シャンソンでも、すでに故人になったゲンズブールの人気復活という現象がある。
 紀元前一世紀のエジプトが、いとも簡単に21世紀の博物館大倉庫に変わった。演出と衣装のアウレンティ・ペリィのアイデイアが、シャンタル・トーマスの美術によって現代に生き返った。ナイル河の橋も、クレオパトラの私室も、ローマ軍の陣地も、喜びの庭も、すべて巨大な博物館の地下倉庫で演じられた。
 シーザーもクレオパトラもコーネリアも、みな博物館に運ばれてきた木枠やら額縁やら1000年の昔の箱から登場する。コーラスは皆博物館で働く運搬人やら学芸員、そして下働きのスタッフ達だ。考えてみれば、現代人の出会うシーザーもクレオパトラも、みな博物館のガラス箱に入っているのだから、このシチュエイションにはまったく無理はない。
 シーザーのまっちょさも充分に満足したが、なによりもシースルーの薄物を纏ったクレオパトラの妖艶な手練手管にノックアウトされた。
 でも、この夜いちばんの功績は指揮のエマニュエル・エイム。 流麗で溢れんばかりの美しさ、禁欲的で典雅なヘンデルの音楽を、知的に官能的に作り上げた。女流指揮者としての優しさとダイナミズムが、しっかりと伝わって、ガルニエ宮を埋め尽くした観客はいつまでも熱狂的な拍手を送った。


コメント

3件のフィードバック

  1. 白戸サトシのアバター
    白戸サトシ

    最近、心はすっかりパリです!
    ブログのおかげで、一度も行った事のない街が、なぜか身近に感じています。

  2. 星野 和彦のアバター
    星野 和彦

    いつもお読みいただき恐縮してます。
     いつかモトテカでお会いしましよう。

  3. 白戸サトシのアバター
    白戸サトシ

    ありがとうございます。バッタリ遇うのが
    楽しみです!

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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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