ブーケの悪戯

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 ひさしぶりにお洒落なブーケをいただいた。自然をいかして束ねた中振りの「クラッチ・ブーケ」だ。
 ビロードの薔薇を主役に、大人の表情のケイトーが添えられ、星屑のようにワレモコウが散っている。すべての花は深い真紅で、添えられた葉のミドリとのハーモニーが美しい。
 いつか巴里モンマルトの墓地で椿姫の墓に捧げられていた花束を思い出した。彼女の最後の恋人ベレゴー伯爵が永遠に花を絶やさないようにと墓守に託したあの花束も、深く赤いビロード色だった。
 まま花束をいただく機会はあるが、こんなにシックな大人のブーケをいただくのは、何十年ぶりのことだろう。近頃は豪華で野暮なパチンコヤの開店祝いのような花揃えが多い。楽屋花もこれみよがしの胡蝶蘭の行列で、むせる香いが死にそうになる。
 清楚で華やかで胸ふるえるこのブーケは、僕の心に眠っていたなにかを目覚めさせ、さあ、困ったことだ。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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