ブキニストの反乱

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 アポリネールもナポレオンも通ったというセーヌ河沿いにある古本市…ブキニストが揺れている。 シテ島の両側にあるセーヌの右岸と左岸に石の欄干をまたいで深緑色の箱が並んでいる。一人が四つの箱まで使用可能ということになっているが、16世紀ごろからの権利関係などあってなかなか普通人はブキニストになれない。
 この200人程の箱型古書露店のブキニストには、いろいろウンチクがあり、歴史書専門、文学書専門、音楽演劇専門、さらに建築専門と色々あって、ここにいけばエッフェル塔の設計図やら半分出来たエッフェル塔の当時の写真などもあって楽しい。
 どういう本をおくか、置いた本についてどれだけ知識があるか、というのがブキニスト達の価値基準で、ただ観光客目当ての旅行案内やマンガ本などは軽蔑され、そんなものはブキニストではない。出てってくれと、なかなかに厳しい。
 パリ当局も土産物に類するもの、軽い本は四分の一以内に制限して、使用料を免除し税金もとらない。世界遺産の小さな露天本屋を維持するには、いろいろの援助も必要なのだろう。
 そのブキニスト達の陳列箱がだいぶ傷んで景観をこわすというので、パリ市当局はこのほど、新進デザイナーに委嘱して新しいブキニストの箱を作った。
 ポンヌフの橋の傍らブキニストのエリアに四つのプレゼン用の箱を並べ、いちばん評判のいいデザインを採用してブキニストの風景を綺麗にしようという計画だ。新しい箱は落書きの出来ない特殊加工がされ、照明が内蔵され、暖房までついているという。
 金属だかプラスティックだか知らないが、そんなもんに本はいれられねぇ。本が呼吸困難になって死んじまうよ。木じゃないと本は生きていけないんだ。まったく役人の考えることは…という訳で、ブキニスト達からいま総スカンをくっている。どこかの国にもありそうな話だ。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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