30年前に熱くファッションを語った友が、何も言わず庭の花のはなしをしている。
ファッション誌の取材記者をしていた彼女にとって、ファッションは宗教だった。ディオールがこんなシルエットを発表したわ。シャネルは相変わらずね。マーク・ジェイコブスって凄い才能だと思うわ。あの頃は、ファッション・ビジネスの資本構造にはまつたく興味がなく、末端のデザインに興奮し燃えていたんだろう、ということが容易に想像できる。
メゾンの空気は、京都の老舗のような家業の雰囲気に充ちていた。歴史とともに磨かれる神秘性のうえにクチュール・メゾンはどっしりと胡坐をかいていたともいえる。だからファッションは、フランスを代表するイメージとして国の援助のもとにぬくぬくとビジネスをし、そこに関わっている人々はある種エリートとして、表通りを闊歩していた。
ところが今表通りにあるのは、ZARAザラであり、H&Mエイチ・アンド・エムであり、ユニクロになってしまった。
1984年に土建屋のベルナール・アルノーが、伝統あるディオールを買い取ったところから、全く様相が変わってしまったのだ。アルノーは、ルイ・ビィトン、ロェベ、セリーヌ、ジバンシー、ヘンディ、ダナ・キャラン、エミリオ・プッチ、そしてディオールから、時計、宝石、香水、コスメ、はてはモエ・シャンドンからドン・ペリニヨンまで手中に収め、ユダヤによる一大ラグジュアリー・コングロマリットを作りだした。
かくてファッション界は、ラグジュアリー贅沢ブランドと、ストリート系貧乏ファッションに集約され、志をもった中級ファッションの住む場所はなくなったのだ。
彼女はいまヴァルビゾンの森で静かに暮らしている。
ファッションを棄てたパリジェンヌ
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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