ノートルダムのグロテスクな怪獣たち

by

in , ,

ノートルダム大聖堂_1485922238-300x225.jpg
  ノートルダム大聖堂の炎上は、江戸っ子にとっての浅草寺炎上よりも大きなショックだっただろう。
 大聖堂のあるシテ島はセーヌの中州にあるパリ発祥の場で、教科書の第一頁に載せられた挿絵を見てフランス人は皆育ってきた。そのシンボルであるあの大聖堂が燃えるということは、故国フランスが炎上するような悲しさに見舞われた筈。
 ナポレオンの戴冠式も、ジャンヌダルクの復活裁判も、パリ同時多発テロの追悼ミサもみなこのノートルダムの広場と聖堂でひらかれてきた。若者たちのデートの名所もこのシテ島の先端にある小さな公園なのだ。
 炎上の映像をみて大統領はすぐさまノートルダムにかけつけた。ユダヤ系のファッション財閥は直ちに再建のための寄付を発表した。
 ルイヴィトン、モエヘネシー、VMHグループのベルナール・アルノー氏一族は250億円、グッチ、イヴ・サンローランなどを配下にもつケリングのフランソワ会長は130億円、ディズニーは5億6千万円、アップルのティム・クックなど、欧米の富豪がぞくぞくと寄付を申し出ている。いずれもフランスのブランド価値を手段に金儲けをした連中だ。
 フランスの税金の高さから逃げ出し、ブリュッセルに居を移したり、タックス・ヘイブンに本社をもっていったりしている連中が、もっぱら寄付寄付とさわいでいる。
 筆者にとってのノートルダムは、三層の屋上廻廊にある怪獣達だった。半世紀前はじめてのノートルダムはガーゴイルと呼ばれている不思議な悪魔巡りだった。
 ガーゴイルはもともと雨樋の機能をもち、そこから出る吐水で聖杯などを洗ったといわれているが、ノートルダムのガーゴイルは吐水口としての機能はないので、ただのグロテスクと呼ばれている。グロテスクには、悪魔、怪鳥、架空の動物、魔女などいろいろだが、ノートルダムには「考えるひと」というホホ杖をついボーとしている怪鳥がいたり、人間をたべている魔女がいたりして退屈する暇はない。
 ちなみにガウディのサクラダ・ファミリアでは、蛇やとかげがガーゴイルになっている。
 異様なものによって魔除けをするという思想は、祇園からノートルダムまで洋の東西を問わない。
 こうした文化財は、歴史そのものであり、人間の知性が生み出したものなので、オリンピックの会場よりはるかに重要なのだ。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ