身も蓋もない言い方をすれば、ネットでお節料理の味が判るわけがない。何から何までネット社会のなかで起きた当然の報いがネットおせち事件のような気がする。味覚の保障がなければ成り立たないお節料理をネットで注文するという行為の責任は当然注文した本人が負うべきだろう。発信元が外食文化研究所といういかにもインチキ臭いところではますますその感を深くする。一流の料亭ですらお節は難しいと試行錯誤しながら作っているのに。21000円が半額になるという餌につられて注文した愚かな人々のお正月は眼もあてられない。
食べるもの、食べる人、食べている時が世界で一番多く映しだされるこの国のテレビに、何の疑問も抱かずに見ているお茶の間の人々は、いつの間にかテレビに映ったフランス料理や日本料理やラーメンを信用するようになってしまった。変な芸人が「マイウ~」と叫べば 、それはとても上手いんだと思い込む。だからインターネットに映し出されたお節に飛びつくのだ。かまぼこの異臭や伊達巻の賞味期限切れ、黒豆のまずさはデーターには写らないとこの際学習したらいい。「お店の料理は絶対に悪口いいませんから、写させてください。必ずタレントに褒めさせます。」というのが、料理番組取材スタッフのセリフだということを知るべきだ。
すかすかの不味い腐ったお節料理を届けたネット会社の社長は「品質管理、製造管理、配送管理に関して充分見極めることが出来なかった」と詫びていたが、つまり素人がやっていたということだろう。ついこの間まで、台所で母の作ってくれたお節は見事にお重を飾り、とても美味しかった。ネット社会になり、すべてを機械が仲立ちするようになって、味は落ち、品格を失い、お節からモラルが逃げてしまった。残ったものはニセモノのうつわと、猫も食わない残飯だけになってしまった。
ネットでお節を注文する。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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