節分の二月三日には無言のうちに恵方を向いて、巨大な巻き寿司を食べさせられた。「念ずれば花開く」どころか念じて寿司くらわば、ダイエット無駄となる。そしてわずか十日後、チョコレート軍団の襲撃に会う。「菓子やばかりに、儲けさせるな」とばかり、お花屋連合も「フラワー・バレンタイン推進委員会」を立ち上げ、不況にあえぐ本屋さんも、芥川賞直木賞受賞作家コーナーのとなりには「バレンタインに本を!」と書かれたビラがはりだしてある。四条通りの漬物やには、ハートの形の「バレンタイン・千枚漬け」まであって笑わせてもらった。
若いころはそっと手渡されるチョコに胸をどる思いだったが、歳とともに秘めやかなシチュエイションは消え、堂々とオープンに渡され、嬉しさ半分悲しさ半分といったところだ。秘かにそっと貰うチョコに勝るものはない。
かって「本命チョコ」と「義理チョコ」に分かれていた勢力図も、最近は更に細分化され「感謝チョコ」「チャリチョコ」「逆チョコ」「自分チョコ」といろいろに分かれ、小中学生の女子の間では圧倒的に「友チョコ」が流行っているそうだ。男子目当てのチョコは野暮といった風潮があり、喜び騒いでいる女子を遠目に寂しい男子が増えているとか。「昔は女から男への愛の告白、愛の誓いのチョコだったんだよ」とウンチクを語るのもそう遠くない日の出来事になるかもしれない。
ガーナやエクワドルのカカオ農園に働く少年たちは、お菓子となつたチョコレートを見たことなく、ましてや食べたこともないという現況だというが、フェアトレード・チョコ運動にしても、166メートルの巨大なチョコ看板や、身も心もとろけるチョコ風呂のまえに、おごりの果てのチョコ・イベントとしか思えない。チョコ色のドレスに身を飾ったセレブな女性が「チョコを通じて公平な世界づくりを」と叫んでもリアリティのない「チャリティごっこ」としか映らない。
チョコレート狂騒曲
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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