こう暑い日が続くと、ソーメンが食べたくなる。
のどごし爽やかなソーメンは夏の季節に寄り添った日本の食の代表だろう。冷やして食べる清涼感は欧米にはない。ガラスのうつわに入れ、添えられた氷のかけらの上に胡瓜の薄切りなどが散っている風情はなんともいえない。すだれの向こうの浴衣美人に匹敵する。真夏にスイーツなどは、合わないこと著しいし、ますます暑苦しい。せめて果物なら、井戸水に冷やした西瓜が匹敵する。
ソーメンのさらに嬉しいのは、造りたてではなく歳月を経て一度ならず梅雨時をくぐったものが、油くささが抜けて味が良くなるということだ。去年、一昨年の友人の心尽くしが蘇える。
我が家には、ソーメンのうつわとして京都でしつらえた直径30㎝ほどの黒の溜め漆に中側を金に塗った手付きの浅い桶がある。ソーメンの映りがとてもよく、クリスタルのボールに負けない。上客が来たときの、ハレのうつわになっている。
ソーメンのおかずは、茄子の揚げびたしに生姜のすりおろし、それにちょっぴりタカノツメが色気を添えてくれたら言うことなし。
始めて、田中角栄のふるさと新潟長岡の料亭に招かれた折、座敷に上がる前に山水の庭にしつらえた流しソーメンをもてなされた。岩のあいだから青竹が流れをつくり、ソーメンが程良い速さで流れてくる。箸ですくって九谷のうつわでいただく。たまに五色のソーメンなど交じって興をそえ、至福のひとときだった。
座敷に上がると、まもなく夕立が庭のみどりを深くし、ちいさな虹が弧を描いた。涼しい風が座敷を通り抜け、芸者のうちわ風を抑える。
あとで夕立の仕掛けを見せられ、腰を抜かすほどに驚いたことを想い出した。
ソーメンの季節が来た。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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