シカトされたドナルド・トランプ。

　砂漠の真ん中に60階ほどの金色に輝くホテルがたっている。朝日があたって眩しい。
　ヴェガスのホテルはおおむねテーマがあって、とても判りやすい。エクスカリバーは中世のお伽の国がモチーフで、とんがった七色の屋根が夢夢しい。ニューヨーク・ニューヨークはNYのスカイラインそのままに作られ自由の女神が目印になっている。ルクソールは巨大なスフィンクスとピラミツドのかたち、サンマルコの鐘楼と広場の奥にそびえているのはベネチアン、五分の一のエツフェル塔とパリの町並みで作られているのは、パリス、ロビーも廊下も部屋もハリウッドなのはMGMグランド、古代ローマ帝国を主題にしているのはシーザース・パレス、といった具合でアメリカ人の好みがそのままメガ・ホテルになっている。
　ところで冒頭の金色のホテルは、かのドナルド・トランプが建てたもの。ニューヨーク五番街でもっとも美しく贅沢なトランプ・タワーの兄弟分。1980年代には全世界の不動産王とよばれ、トランプ・プラザ、トランプ・マリーナ、トランプ・タージマハールと向かうところ敵なしの大統領候補にまで登り詰めた大富豪ドナルド・トランプ。五番街のトランプ・タワーはショツピング・モールと超高級アパートの複合ビルで、スピルバーグ、マイク・タイソンなども、部屋をもちかのケネディ未亡人もこの入口で、パパラッチされたセレブ憧れのアパート。このドナルド・トランプもさすがサブプライム・ローンの破綻に勝てず手放したのだが、そのあとリベンジを図って建てたのがこのベガスのトランプ。ところがこのホテルは大変な欠陥商品、部屋やアーケードは完璧なのだが、肝心のカジノがない。こんなに大きな豪華ホテルにカジノがなかったら、クレープのないコーヒーどころではない。ドナルド・トランプが金をつくし、手をつくしても頑としてカジノを作らせなかったのは、この砂漠の不夜城を支配するベガス・カジノ組合、うつかり逆らうと翌日には砂漠の死体になっている、と噂されるあの組織だ。ニューヨークで失敗したから、ベガスで取り返そうという根性が気にいらなかったのだろうか。それとも仁義の通し方を間違えたのか。