シアワセに咲いてほしい。

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 この連休を迎えてやうやく軽井沢にも春の足音がきこえてきた。
 見通せる限り、枯れ木枯れ野の風景にやんわりと色彩が滲んでくる。遠山が薄桃色に染まって、暖かな風を運んでくる。小さな芽吹きが山全体をつつんで景色に春の気分を加える。
 庭先ではレンギョウの黄色が華やかさを競う。自信たっぷりに枝を伸ばし、黄色の花弁を密集させて、なにものも寄せ付けない。反対側の庭蔭には、やまぶきの黄金色がひかえめに咲いている。
 森の中の小路には雪のしたで冬をやりすごした枯葉がそこここに蘇えって、さくさくと心地いい音を響かせる。枯葉の裏には、ちいさな虫たちが命をあたためている。木漏れ日に映る名もない雑草の芽もなぜか嬉しい。危なげな白樺のえだにも、ちいさな芽吹きがいっぱいに映って、この夏の無事を予感する。
 朝早く起きて、風を楽しむ。森のどこからか、落葉松の芽のはじけて開く音がそっと聞こえてくる。
 山を降りていくと、一番先に眼にとびこんでくるのは、こぶしの花だ。
 軽井沢の春は白いこぶしに始まる。今年のこぶしはどうだろう、花がいっぱいにつくだろうか。去年は原発の騒ぎで花どころではなかつたから、こぶしがどのように咲いたかもわからない。今年のこぶしは、シアワセに咲いてほしい、と外国を知らない古老はつぶやく。
 この土地に桜は似合わない。


コメント

1件のフィードバック

  1. いつも、確信を突く発言を楽しみにしています!
    前回のスカイツリーかっこ悪い宣言!に続き!
    今回は軽井沢に桜は似合わない宣言!
    コブシの花は、よく白い鳥にたとえられますが、軽井沢とに似合うのは鳥ですね!
    軽井沢彫りのモチーフに桜が選ばれたのは外国人あこがれによる部分も大きく、長い冬を越した喜びの表現はコブシの方が高いです。
    私的第二候補の山桜は葉が先に出てくるので一番花の座を譲った感じです。

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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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