このところ国立劇場初春歌舞伎がやたら楽しい。菊五郎さんを中心に座組された復活通し狂言のいろいろである。
昨年は「旭輝黄金鯱」(あさひにかがやくきんのしゃちほこ)、大凧に乗って名古屋城天守閣の金の鯱鉾から鱗を盗んだと伝えられている伝説の大泥棒、柿木金助の物語。金助が大凧の宙乗りで客席の上を斜めに飛び、客席に迫り出した城の大屋根に降り立つなど、高所恐怖症と伝えられた菊五郎さんは仮病であることがはっきりした。本水を使っての鯱つかみ大立ち回りでも菊之助さんの役者根性が伝わって120パーセント楽しい初春大歌舞伎だった。
そして今年196年ぶりの復活狂言は、福森久助の「四天王御江戸鏑」(してんのうおえどのかぶらや)。源頼光とその家臣四天王による朝敵平将門に対する戦いを6メートルを超す巨大な土蜘蛛退治をクライマックスに繰り広げるケレン芝居だ。謀反決起の相馬御所は竜宮城に見立て、蒲鉾入道やら鰊の局、塩焼、照焼の悪の巣窟、羅生門河岸の女郎屋ではカムロ達が「アイタカッター、アイタカッター」とAKB48よろしく盛り上げると女郎も一緒になって踊る。いざとなつたら「お土砂」で爆笑を誘う。お土砂というのは振りかけるとカラダが柔らかくなる不思議な粉で、女郎も客もみなフニャフニャ、ついには女郎屋の柱までフニャとなる、立ってなければ役立たずの遊里のパロディでもある。そこに花道から女子案内係の先導で登場するのは戦場カメラマン、とても似すぎていて怖い。圧倒的なのは音羽屋家伝の蜘蛛の糸、これほど豪勢に大量につかったのはあまり例をみない。ついにはキャノンで客席にむかってオヤカタの蜘蛛の糸が発射される。理屈抜きに楽しい尾上菊五郎渾身の初春大歌舞伎であった。
ケレンたっぷりの初春狂言
コメント
プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
コメントを残す