カルメンという名の悪女。

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 ヴェルディの椿姫は改心する娼婦が主役。ビゼーのカルメンは改心しない娼婦が主役。そのカルメンを大畑晃利君を中心にした軽井沢オペラ・プロジェクトが、上演した。メリーウィドーに次ぐ第二作としてカルメンを取り上げたのは、ビゼーの音楽のなじみ易さからいっても的をえていた。
 二日目加賀ひとみのカルメンは、しつかり声も出ていたし、なかなかの美人だつた。がカルメンという役柄を演じ切っていたかというと、これは別問題だ。カルメンに限らず、この国のオペラ・シンガーは総じて楽典に忠実な音声発生器に堕して、総合芸術としての演劇的側面が弱い。ミラノ、パリと云わないまでもヨーロッパの地方都市のオペラに較べても、この点は実に軟弱だ。とくにカルメンのように明確なキャラクターを持っている役柄にも拘らず内面描写に迫れない。声を出している時はまだしもカルタを撒いたり、スカートの裾を手にステップしているとまるで学芸会になってしまう。ホセ役の塚田堂琉にも粗野な男の魅力は皆無で、カルメンの愛想ずかしもさぞやと思われた。女と男の性的魅力が充満していなければならないこの舞台に男と女は見当たらなかった。日本のクラシック界を支配している教養主義の悪しき即面がでてしまっていた。
 合唱団については、こうしたオペラ的環境に身を置くことで勉強になったことと思う。煙草工場の女たちも、ジプシー達も役づくりは喉だけでなく、全身にゆきとどかなければならない、という原則に立ち返って勉強することで町民オペラも明日がみえてくる。
 舞台転換のほとんど不可能なこの会場で、えんえんとセツトチェンジをした暗転処理は観客に対して不親切と云われても仕方がない。写実を追っかけた舞台装置は避け、転換のないより象徴的な祝祭的装置で舞台をまとめたほうが、よかったのではないだろうか。
 楽しく聴かせてもらったのはオーケストラだつた。管についてはハラハラしたところもあつたが、高橋勇太の棒も歯切れよく、いささかの情緒不足を我慢すれば、この混成オーケストラをよくまとめていた。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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