カラマツの終幕、冬の入り口にそそぐ

by

in

カラマツの終幕、冬の入り口にそそぐ
 庭先の桜も紅葉もすっかり葉を落として、冬の近さを教えてくれる。
早朝の浅間山は、3日にいっぺん位白い薄化粧をまとって、木枯らしをはこんでくる。
 いよいよ白い冬の季節が到来する。
 ある女流作家は、浅間嶺の白が眼に入っると、緊張して胸膨らむ思いに捕われると言う。
 玄関をあけると、落ち葉が舞い込んでくる。小さな落ち葉、大きな落ち葉、光に反射してカラマツの針が雨霰と降りそそぐ。いろいろな落ち葉を踏んで駐車場にたどりつくと、フロントとガラスの隙間や、ワイパーのゴムにからんで落ち葉が車にまとわりついている。出発前の落ち葉落しが、このところ習慣になった。車にまとった落ち葉をすっかり落とすと、周りはみごとな彩落葉の海となる。
 森の小道はすっかり落葉のじゅうたんになっている。
 かさっ、かさっという落葉の音をききながら、ゆっくりとアクセルを踏む。光に反射したカラマツの針は、まぶしいほどに降り続いている。
 すこし広い道にでる。大きな落ち葉は木枯らしに吹き飛ばされ、落葉掃きのあとのようにアスファルトが腹をみせる。カラマツの落葉は行儀よく道の両側に寄って、車のお通りに控えているようだ。
 ナナカマドの紅葉に始まった秋のコンチェルトは、深紅ののむらモミジでクライマックスを迎え、カラマツの黄色で終幕となる。
 あわててデーラーに、スノー・タイヤの履き替えを依頼すると、そろそろお客様も立て込んで、来週の週末でよろしければ、代車をもって車の引き取りに伺います、とのこと。こればかりはどうすることも出来ないので、カレンダーをにらめつつ予定の変更を書き込んだ。
 ふと仰ぐと、葉を落とした白樺の枝にアカゲラが夕陽を浴びて美しい。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ