にほんの原風景・注連縄

by

in ,

TKY200912260296.jpg
師走の声を聞くと、スーパーの入り口には「注連縄」の数々が並べられる。
 大根締め、輪飾り、ごぼう締め、ぐらいしか種類がなかったのに、去年あたりのスーパーにはさらにいろいろの注連縄が並べられて注連縄つくりの業者さんも大変だなぁと内心ひそかに同情している。
 注連縄のそもそもは、天照大御神の岩戸開きの折、二度と岩戸に戻れないようにと、大玉命が岩戸の入口を注連縄でふさいだと、伝えられているが、原始稲作信仰から注連縄に稲のわらが用いられ、それが今日の注連縄へと続いている。
 家の門、玄関先、あちこちの出入り口、さらに自転車や自動車、田圃、ため池、大きな岩、巨木、御旅所などありとあらゆる所に注連縄があるのが、にほんの原風景だ。
 花街に多いのは「笑門」と書かれた札がわら飾りに添えられた注連縄、これが玄関のうえに飾ざられてある。笑うかどには福来るという江戸期からの俗信をそのまま注連縄という結界に託して担いだ縁起ものになっている。
 お犬さまの首に注連縄をして伊勢参宮をすることが流行った年がある。犬公方へのおもねりからその年のお蔭参りに、皆注連縄をした犬を連れて伊勢神宮をめざした。その犬はお蔭犬と噂され、村中の人々が拝んだという話だ。
 信州では諏訪の上社、下社の巨大な注連縄作りがニュースになるが、大きさからいえば出雲大社の注連縄にとてもかなわない。大きいほど厄を払い、禍を除くという俗信の具体化でもある。
 成田山新勝寺の注連飾りは、稲作信仰そのもののような収穫後の稲束を真ん中にかざられている。檀家の農家に予約しておいた6000束の藁から2500束を選び出して作られた巨大な注連縄である。ああこれが瑞穂の国と言われた日本の結界なのだと納得する。
 神域と現世をわける象徴の稲束なのだから、夜店で買ってきたビニールの偽藁ではかえって禍をまねいてしまうのだ。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ