圧倒的に多いコーヒー派のなかで、なぜか紅茶派の孤塁をまもってきた。
ロンドンに長く暮らしたわけでもないが、パリでももっぱら紅茶なのだ。
パリ名物カフェでは、まつたくといっていいほど紅茶をオーダーしない。あれほど味覚にうるさいパリのくせに、カフェの紅茶だけはいただけない。首吊りのヒモ付の紅茶だけは信じられない。
紅茶はしかるべきポットで、沸騰したてのお湯をいれてこその紅茶だと思う。焼き立てのクレーム・ブリュレ、焼き立てのクロック・ムツシュがドヤ顔で出てくるカフェなのに、紅茶だけは、首吊りに生煮えのお湯がついてくる。グルメの街パリに於ける唯一最大の欠点だろう。
そんなこんなで紅茶を飲みたくなったら、サロン・ド・テに脚をむける。なかでもホテル・スクリーブの玄関脇にあるアン・テ・リュ・スクリーブは大のご贔屓。リヨンの紅茶の名店チャ・ユアンの茶葉が置いてあるパリ唯一のティーサロン。
ダージリンには白磁のたっぷりしたポットとカップ、アール・グレーには中国赤絵の急須と小ぶりの茶碗という風に茶葉それぞれの器がベスト・コンディションの暖かさでサーブされてくる。ゆったりした椅子、ソファで螺旋階段のうえには、本に囲まれた静かな席が用意されている。ガルニエ宮のオペラから3分の近さなので終演後の語らいにも絶好のティ・サロンなのだ。
途中かの有名なカフェ・ド・ラ・ペがあるが、メニューでもサービスでもスクリーブのサロン・ド・テの足元にも及ばない。
またユアンの紅茶の缶の美しさは色彩に置いてフランス一だ。フォーションやエディアールはとてもかなわない。紫、黄色、青、スカイブルー、オレンジ、ピンク、白、黒、など10色におよぶ見事な色に、中国式の茶と金で書かれたシンプルにして華やかなデザインの缶に脱帽する。茶葉の種類も30種に及ぶ。テ・ノアールのあれこれを日替わりでいただくだけで、パリに住みたくなる。
なぜか紅茶派
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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