うたかたの恋、うたかたの美味

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うたかたの恋、うたかたの美味
 京都北大路の近く、評判のおばんざい「うたかた」へいってきた。
 なによりも「うたかた」という店の名に惹かれた。
 皇太子ルドルフと令嬢マリーの「うたかたの恋」は心中という悲しい結末で終わったが、それ故に読む者の心を捉え、映画になり、宝塚のミュージカルにもなったのだが、それにもまして「うたかた」という言葉の響きは、都のはんなりとした空気に似合う。
 町屋の玄関前に置かれた行灯の、心優しい「うたかた」の筆に誘われやかたにお邪魔した。
 とこう書くといかにも自らの意志で行ったようだが、そうではない。
 30年前、ボストン美術館の「日本歴史キモノ絵巻」で、ともに苦労した奥村ミサホさんの招きだ。スタイリストであり、コーディネーターである彼女は、まま大胆なドレスに身を預け、ジャズを唄う熟女でもある。古風な日本画家の娘として育つと彼女のような珍種もでるらしい。
 表の和室と中庭を見る奥の和室、そのあいだのカウンターのある部屋、うたかたは古い町屋の佇まいで、いかにも洛北の大人の隠れ家といった風情だ。
 磨かれたカウンターにはずらりとおばんざいが並んでいる。
 くも子のてんぷら、とこぶしたいたん、鶏の山椒焼き、旬野菜のジュレ、まなかつおの味噌ずけ、百合根の卵とじ、白えびのかき揚げ、小芋と棒だらの煮付け、れんこんの胡麻和え、女将のロースト・ビーフ……美しい女将有田紀子さんのの京ことばは耳に優しく、美味しんぼのアクセサリーになっていた。
 話題の獺祭・遠心分離も初めて味わった。
 久しぶりに艶やかで、美味しさに充ちた、北大路の町屋おばんざいであった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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