十二代市川団十郎夫人、堀越希実子さんの著作「成田屋の食卓」が評判になっている。
サブに、團十郎がたべてきたものとあるが、この本は料理の本でありながら料理の本ではない。成田屋をとり巻く人々とそれを支えてきた夫人の愛のものがたりなのだ。喜怒哀楽をおおげさに叫ぶことなく、たんたんと團十郎の妻を務めてきたひとりの女のモノローグになっている。
学習院仏文科に通っていた世間知らずの女子大生が、十代目海老蔵と結婚した23才の冬から物語は始まる。
夢見た新婚時代はまったく無く、役者の女房になるという大きな壁にぶつかる。「あなたこんなことも知らないの」番頭さん、義妹、そして先輩の伯母さま方から心得を学び、芝居のこと、楽屋のこと、ご挨拶のこと、ひとつひとつを身に付けてきた初めての体験が痛々しい。
初めてのお正月、お屠蘇、おせち、お弟子さん方へのお年玉、しきたりに戸惑う嫁の日々。役者の女房は24時間が仕事と悟り、團十郎の身体への心ずかい、つたえるということの重みを通して自分に課した役割りなどしみじみと伝わってくる。花見の季節を迎えれば、わが家の一本桜のもとでの花見の宴、團十郎の朝ごはん、鴨のパーティ、ふたりだけの夕食、そして團十郎の大好きだったマグロ料理のこと、ひとつひとつの料理が家族の歳時記であり、人気のカレーも育っていく子供達との思い出につながる。美味いマズイのレシピ本にない家族の通過儀礼がそこに描かれている。
最後に團十郎の闘病のこと、療養中の食事のこと、ただ泣いた日々、そして嫁に伝えたい成田屋の食卓でこの本は終わっている。
歌舞伎座の廊下に並んだ歌舞伎役者の御夫人方を見ればわかることだが、きものにたいする感性も彼女は並外れている。品格があり、ユニークな色彩感が新しい。決して飛び出さずに控えめに個性をだす。昨日今日のタレント上りには真似のできないセンスをもつているのが希実子夫人なのだ。
筆者が30年前、「希実子好み・茶屋ごろも」というきものブランドを企画したのも、そうした彼女の魅力に魅かれたからであった。
「成田屋の食卓」が売れている
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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