「こわくない」というこわい絵本

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 井上まきちゃんから本が送られてきた。
 父上であられる前衛画家井上洋介さんと谷川俊太郎さんの著作である。
 「こわくない」というタイトルの絵本なのだが、これが実にこわい本なのだ。
「こわくないったらこわくない おばけなんてこわくない」 少年は闇のなかで時計の振り子を弄んでいる。
「くらやみだからくらいのは あったりまえでしょう」 ☆の透ける闇夜に少年の顔が浮かぶ。
「こわくないったらこわくない とうちゃんなんてこわくない」 鉢巻のとうちゃんが上からどなっている。
「とうちゃんだからいばるのは しかたないでしょう」 とうちゃんは腕こぶしも大きい。
「こわくないったらこわくない せんせいなんてこわくない」 先生は鞭を手に教えてくれる。
「せんせいだからおこるのも しごとのうちでしょう」 メガネを飛ばし鞭を振り回して怒っている先生。
「こわくないったらこわくない かみなりなんてこわくない」 トラフンのかみなりには角がにほん。
「おおきなおとがするだけで ただのでんきでしょう」 ゴロゴロ太鼓が天空いっぱいに踊っている。
「こわくないったらこわくない ユーカイなんてこわくない」 街角で誘拐犯に連れて行かれる少年。
「しらないひととくらすのも たまにはいいでしょう」 誘拐犯と少年のティータイム。
「こわくないったらこわくない 戦争なんてこわくない」 飛行機から爆弾が雨あられ。
「死ぬのはカッコわるいから あっさり逃げましょう」 一㌧爆弾からすたすた逃げる少年。
      空では空中戦、知らん顔の花や虫たち、犬に吠えられ必死に逃げる少年。
「こわくなるったらこわくなる おとなになればこわくなる」 街中、歩くおとな、走るクルマ。
「くよくよおどおど こわくなる どうしてなんでしょう」 威張るおじさんとオジギのおじさん達。
 絵本塾出版からでているのだが、これは絵本だろうか。…こわいおとなの絵本。
 


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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